TENNOZ TWILIGHT #05
天王洲トワイライト
うっすらと残るオレンジ色の地平線を境に空は光を失って、街はきらきらと輝き始めている。上空から見た東京には無数の灯りがゆれていて、その一つひとつの灯りの中にそれぞれの生活があると思うと、東京はとても大きな街だ。
私にも、帰る家がある。
始めての出張を終えて、羽田空港へ到着するとシステムトラブルの影響で到着ゲートまで混雑していた。
「空港まで迎えに行くよ」
そのせいなのか電源を入れた携帯に、カズユキからメッセージが届いていた。
カズユキとは、一緒に暮らし始めてそろそろ二年が経とうとしている。「同棲しても、恋人らしさをなくさずに過ごそうね」なんて二人ともはしゃいでいたけれど、玄関では夕飯がいるかいらないか、週末には出張の有無や家事の分担ばかり確認するようになっていた。
一ヶ月も家を空けたのは、一緒に暮らして以来始めてだった。先に着いていたカズユキは「おかえり」とだけ言って、私のスーツケースとボストンバックを持って歩き出す。
先月、北海道への営業に私が経つ前のことだ。家の更新時期を知らせるハガキが届き、先に帰った私が食卓に置いておいた。遅くに帰ったカズユキはそれを見つけると、「払っておくね」とだけ言って、シャワーへ向かっていった。感謝しているけれど、大事なことを、大事なことと考えてもらえないような気がして、私は言葉が出なかった。
東京モノレールの窓から、国際線のターミナルを見送る。運河沿いをモノレールは静かに走り、トンネルに入ると無口な私たちを映した。大井競馬場駅を過ぎる頃になると住宅地や公園が見えてくる。やっと、東京に戻ってきた。
「次の駅で一度降りよう」
カズユキはすでに立ち上がっている。私は慌ててボストンバックを持って追いかける。
「ねえ、一体どうしたの」
「たまには、東京の夜景でも見ようと思って、せっかくベイエリアの近くに住んでいるんだし」
ごめん、と言ってボストンバッグも私から預かると、構わずにカズユキは歩いていく。
専用の桟橋から船に乗り、海へ出た。船は、波のない東京湾の中を、すい、すいと、まっすぐ進んでいく。クレーンと大型コンテナ船が並ぶ埠頭を抜けると、白く光る東京ゲートブリッジをくぐる。
「海沿いの街の夜景って、こんなに綺麗だったっけ」
「見て、橋の向こうにスカイツリーも見えている」
波の音の中で、私たちは笑いあって、久しぶりに手をつないだ。
お台場前を通り、レインボーブリッジを過ぎる。船体が低い船から見る東京湾の夜景は、飛行機の中からとは違って迫力がある。
「次の更新まで、またよろしくね」
突然、記憶は一ヶ月前に遡り、素っ気なかったカズユキの声を思い出す。
「しばらく一人になって、寂しかったんだ。ずっと、一緒に暮らしたいなって思った。だから、更新させてもらったお礼にと思って。しばらく一緒にゆっくり出かけていなかったし、そういうことも、ちゃんと記念にしなきゃいけなかったよね」
品川方面まで歩けないことはないけれど、荷物があるからと浜松町までもう一度モノレールに乗った。ビル群の中を、くねくねと進んでいく。反対車線のモノレールとすれ違う時には、景色ではなく、並んで、笑って座る私たちが窓に映った。
「今年はもう葉桜だけど、あの船から夜桜も見られるらしいよ」
「来年は、桜の季節に連れて来てくれる?」
すいすいと進む船のように、私たちの暮らしも前進し、天王洲アイルの途中下車が毎年続きますようにと願った。
【小説の舞台】
CRUISE ZEAL ジール
懇親会や納涼会、修学・研修旅行から会議視察といったビジネスシーンに、もちろん婚礼・パーティーまで人数によって最適なプランを案内。船一隻を贅沢に貸切、一年を通じて四季折々の東京の景色を楽しめる。
03-3454-0432 品川区東品川1-39-21
予約受付 / 10:00~19:00(無休)
KAZESORA 〜風空〜 No.7
2016.04.18.の記事です。
Editorial by BTTB inc.
Scenario & Text:Eri Sakuma さくまえり
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