TENNOZ TWILIGHT #02

天王洲トワイライト

 春一番が去り、天気がよく、暖かい。そして、春のせいか、今週から私の週末は結婚式ラッシュだ。明日の二次会会場は、天王洲アイル。今日のうちにパーティー用のドレスを取りにいかなければならない。

 白金高輪のマンションから、実家がある泉岳寺への道のりにあるクリーニング屋にはずいぶんと昔から通っていて、ドレスを預ける度に「早く璃子ちゃんの花嫁姿も見てみたいわ」と言われる。おばちゃんの家は、ふたりとも息子だから、幼なじみの私のドレス姿を見たいのだと言ってくれる。でも、いつの間にか33歳になってしまったし、私の身近には恋愛らしいことがまったくないとは、きっと思っていない。

「璃子ちゃんいらっしゃい、いよいよ明日ね」

「うん、二次会は天王洲アイルだって」

「うちのアキヒロも行くみたいよ」

 そうなんだ、と答えて、足早に店を後にする。アキヒロに会うのは、大学時代、駅の改札ですれ違ったのが最後だった。

 お天気だけど、日曜日は朝から風が強く、タクシーで向かうことにした。天王洲アイルは歩いて行けるくらい近いけれど、何年ぶりだろう。

 会場は運河沿いにあり、ふれあい橋から続くボードウォークと、石畳の広場が気持ちいい。同級生の亜紀と亮介は、私たちが生まれた年にできた地元の高輪教会で式を挙げ、二次会は海の近くでと天王洲アイルを選んだ。

 亜紀の真っ白なドレスは、ぽっこりとお腹が膨らんでいて、ふたりは私を見ると、照れくさそうに笑った。東京で育った二人は、修業先のフランスで恋に落ちた。なんだか、今の私には、ロマンティックすぎて、映画のように思えてしまう話だ。実は“近所”でもある天王洲アイルなのに、この「ラ・カーザ・ニキ」という南欧風のレストランも、まるでその舞台のように見えた。

「璃子、久しぶりね。日本に戻ってから、誰とも会えていなかったの」

「開業準備も忙しいでしょう。お腹ももうこんなに大きいし。順調なの?」

「うん、赤ちゃんは元気。まずは亮介一人でできる分だけはじめてもらうつもり」

 二人はパティシエだ。亜紀の実家の一角を改装して、店舗にするのだと、母から聞いていた。

「そういえば、アキヒロには会った?」

「まだ。昨日、おばちゃんには会ったんだけど」

「随分、時間がたったから、いいかなと思って。大丈夫だったかな」

「もちろん。もう、10年以上前の話よ。気にしないで」

 本当は、気にしていた。

 ころころと、私の周りに恋の話がころがっていた頃のこと。私たちはまだ高校生で、付き合っていた。幼なじみ同士が付き合えば、それはなんだかあまりにも刺激がなさ過ぎて、私はアルバイト先の先輩に恋をしてしまった。それ以来、私たちは話していなかった。

 二次会では、涙が止まらなかった。二人が小さい頃の映像には、私やアキヒロも映っていた。結婚式の様子が映れば、両家のご両親が、随分歳をとっていて、当たり前のことなのだけれど、なんだか切なくなって、また泣いた。

「こちら、どうぞ」

 会場スタッフが、大泣きしている私を見かねて、ティッシュを差し出す。アキヒロが、隣のテーブルから、こちらを見ている。テーブルに丸めたティッシュを並べて、目を真っ赤にして。

 私たちは、笑った。

 三次会には行かなかった。新郎新婦に見送られ、「幸せにね。近所なんだから、また、すぐ会えるね」と私は言い、「赤ちゃん生まれたら、すぐ連絡する」と亜紀は言った。ちょっぴりふくよかになった亜紀は、本当に、幸せそうだった。真っ白いドレスが、夕暮れを映す。天王洲の運河は、夕方になると、凪いでいた。

 二人が入場まで歩いてきたボードウォークを歩いて、ふれあい橋を渡る。

「帰るなら、一緒に歩いて帰ろう」

 振り返ると、アキヒロが息を切らしていた。泣き疲れたから、帰ることにしたという彼と私は品川方面へ並んで歩く。私は、何を話したらいいのか、わからなかった。アキヒロは、何を話そうか、一生懸命考えているみたいだった。

「天王洲アイルに来たの、覚えてる?」

「うん、覚えてる。昔、よく来たよね」

 私たちは、桜の季節になると、よく目黒川沿いを散歩した。暗くなるまで歩いて、気づくといつも、天王洲アイルだった。

 ここは、私たちにとって、近所の街なのだけれど、当時、天王洲アイルという地名から“アーバンリゾート”だなんて言われはじめ、高校生にとっては随分遠くまで歩いて来たような気がしていた。

 今年も、もうすぐ桜が咲くだろう。

「桜の季節に、また来ようか」

 気づけば風は、すっかり止んでいて、ころころ、と恋がころがりはじめる音が聞こえた気がした。


【小説の舞台】

La Casa NIKI ラ・カーザ・ニキ

運河を望むキャナルガーデンで素敵なオリジナルウェディングを

美しい運河を望む広大な石畳のガーデン。この素晴らしいローケーションを使った、ガーデン挙式やデザートブッフェ、ダンス、バンド演奏、バルーンリリースなど多彩な演出が魅力の「ラ・カーザ・ニキ」。ゲストとの距離を感じさせることのない、アットホームなオリジナルウェディングを叶えることができる。

品川区東品川2-2-24天王洲セントラルタワー キャナルガーデン1F

【ランチタイム】 月~金/11:30~14:30(L.O 14:00)

【ディナータイム】 各種会合にご利用可能(貸切専用/30名様~)

【ブライダルデスク】 無休/10:30~19:00(年末年始を除く)

東京モノレール「天王洲アイル」駅中央口、約3分

りんかい線「天王洲アイル」駅 B出口から徒歩約5分

http://www.cordon-bleu.co.jp/niki/

KAZESORA 〜風空〜 No.4

2015.03.18.の記事です。

Editorial by BTTB inc.

Scenario & Text:Eri Sakuma さくまえり

Illust:Akane Ukon 右近 茜

KAZESORA〜風空〜

ウォーターフロント「天王洲アイル」から発信するライフマガジン『KAZESORA〜風空〜 』☆ 現在No.7発行中!! 表紙を飾っていただいたのは女優の中山エミリさんです☆